鳴かぬなら 他をあたろう ほととぎす

妖怪・伝説好き。現実と幻想の間をさまよう魂の遍歴の日々をつづります

からっ風と天狗伝説 ~秋葉神社

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秋葉山本宮秋葉神社(上社)の拝殿

昨年の大河ドラマの影響でちょっと話題になった浜松エリア。それに乗じた...わけではありませんが訪れてきました。大河ドラマの舞台を見るために…じゃなくてアニメ「ゆるきゃん」の聖地巡りで(笑)

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ゆるきゃん車両 ラブリー!

そんな浜松エリアの名物のひとつが冬場に吹く冷たく乾いた風「遠州のからっ風」。年末シーズンにわたくしが訪れたときはよりによって連日強風注意報が発表、夕方ころになると体感温度マイナス10℃くらいのそれはそれは寒~い風に身を晒す状況に陥りました。

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Beautiful, but Sooooo cold!

↑とくにこれを撮影しているときに(笑)

「まずい、死ぬ、凍死する!あ、でもこれぜったい話のネタになるな」

と心の中で叫びつつの滞在となったのでした。(はい、ここでネタにしています)

*遠州のからっ風。季節風の一種で日本海側で雪を降らせた風が乾燥した状態で山を越えてはるばるとやってきたもの。雪は降りにくいが体感温度が低すぎて心が折れそうになる強くて冷た~い風。現地では「布団がふっとんだ」と言うとダジャレとして機能せずに本気で心配されるらしい(すみません、嘘です)

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秋葉神社上社の鳥居
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天狗のおみくじ!
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幸福の鳥居

訪れた時には秋葉神社(秋葉原の地名の由来とも言われる。正式名称は秋葉山本宮秋葉神社)の本社(上社&下社)がある秋葉山にも登ってきました。標高866メートル。約2時間くらいで登れる山なのですが、山頂の上社では建物の屋根や地面に氷が張っていました。が、浜名湖周辺や浜松市街地よりも暖かい。理由はいたってシンプルで、

風が吹いていなかったから

山頂の絶景を眺め、神に祈りを捧げつつ「からっ風恐るべし」と自然の脅威に畏怖の念を禁じ得なかったのでありました。

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拝殿からの絶景!

徳川家康が絶体絶命のピンチに陥った三方ヶ原の戦いは旧暦の12月22日、現在の暦では1月25日に起こりました。つまり遠州のからっ風の絶頂期。行軍する兵士たちは大丈夫だったのか?と心配にもなってきます。

さらにこの武田信玄の西上作戦は途中で放棄されるような形となり、その後ほどなく信玄が死去。この死因に関しては諸説ありますが…

遠州のからっ風にガタガタブルブルと震わせながらわたくしはある考えをよぎらせました

もしかしたら信玄って遠州のからっ風の寒さにやられて風邪をひいたんじゃないか?

と。

アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントン夜中愛人の元へこっそりと通っていたら風邪をひいてそれが原因で肺炎になって死んだ…なんて話もあるのでありえない話ではないはず。ドラマティックな人生を送った人間の死に方までドラマティックとは限らないわけで。

武田信玄が喀血の症状を見せていたとの話も風邪からはじまった感染症による肺炎の疑いを抱かせます。

果たして真相やいかに?

そして秋葉山といえば天狗伝説、そして火防の神を祀った地としてもよく知られています。全国各地の天狗信仰の例にもれずこの地の信仰も明治の廃仏毀釈によって破壊されてしまいましたが、かろうじてかつての姿を垣間見ることができます。(たとえば浜名湖の中心エリアである舘山寺にもこの天狗(秋葉三尺坊大権現)が祀られたクールな祠があります。)

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↑これは秋葉神社上社に至る途中にある秋葉寺(しゅうようじ)で撮影したものです。こちらの方が神社よりも従来の信仰をよく保っているようです。

そのためわたしは今回、浜名湖湖畔でからっ風に身を晒して寒さに震え上がり、秋葉山の山頂で雄大な景色を眺めながら感動に打ち震えながら頭の中で天狗伝説とからっ風の関係に思いを馳せることになったのでした。

乾いた強い風は火事の被害を拡大させる脅威となる、となると、

天狗が神秘的な力で風をもたらすと見なされていた

強い風が火事の被害を拡大させる

人々(実際にからっ風の被害に悩まされていた)はそれを避けるために天狗に祈りを捧げる

天狗が火防の神として祀られるようになる

という流れが想像できます。災いを直接防いでくれる神仏ではなく、災いをもたらす神仏に祈りを捧げることで災難を避けようとする、という日本ならではの「祟り神」信仰がここに見られるのかもしれません。

そしてからっ風と言えば群馬県の「上州のからっ風/赤城おろし」もよく知られています。そして群馬県にも迦葉山に代表される天狗伝説がある。

気候条件と人間の思考回路が組み合わさることで妖怪や伝説が生み出されていく、そしてそれが歴史になる。とくに山は歴史と伝説が交錯しやすい場所なのかもしれません。

そうなると俄然気になってくるのが阪神タイガースの「六甲おろし」ですが…当地に天狗伝説はあるのでしょうか?

秋葉神社と言えば徳川家康の信仰が厚く、江戸に幕府を開いた際には江戸の町を火事から守る神として勧請されあちこちに秋葉神社が建てられました。現在でも旧江戸エリアにとどまらず広い地域に秋葉神社が見られ、とくに神社の境内に末社として祀られているのをよく見かけます。

なぜ徳川家康秋葉神社を信仰したのか?理由として「自分の地元の神だから」がよく挙げられますが、もっと直接的な理由はないのか?

遠州のからっ風に身も心も震え上がりつつわたしはある説にたどり着きました。

徳川家康武田信玄遠州のからっ風にやられて死んだことを極秘の情報網を通して知っていたのではないか?そして自分を救ってくれた秋葉の神に感謝を捧げるために信仰を捧げたのではないか?」

さて、この新説(珍説?)はいかがでしょうか?

ちなみに上社の拝殿は1986年に再建されたもの。その前の拝殿は山火事による延焼で焼失してしまったそうです。

というわけで、さあ、みなさんご一緒に!

あれ?火防の神さまじゃないの?

おそらくこうした人間にはコントロールできない荒ぶる恐ろしい面も古くから日本人が山に信仰を寄せてきた理由なのでしょう。

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秋葉神社上社の神門
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玄武
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朱雀
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青龍
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白虎

立派な四神の彫刻を伴う神門も素敵です。↑

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↑こちらは山の麓にある下社の方。参拝者向けの休憩所に暖かいストーブを炊いてくれていたとても素敵なところでした。